ウェアラブルデバイスとは?製造や物流現場での活用法やメリットなど

日常生活での利用が広がっているウェアラブルデバイスですが、ビジネス現場での活用事例も増えてきています。また、製造業や物流業界、建設業界でもウェアラブルデバイスの導入が進んでおり、作業の効率化や生産性の向上、従業員の安全確保などに活かされています。

しかし、ウェアラブルデバイスを現場に導入するには、メリットだけでなく課題についても理解しておかなければなりません。

そこで本記事では、ビジネス現場にウェアラブルデバイスを導入するメリット、導入時の課題、ウェアラブルデバイスの種類や用途などについて解説します。
 

ウェアラブルデバイス(ウェアラブル端末)とは

ウェアラブルデバイス(ウェアラブル端末)とは、身体に装着して使用する小型の電子機器のことを指します。その名の通り「着用できる(wearable)」デバイスであり、常時利用が可能な点が特徴です。

従来のスマートフォンやタブレットとは異なり、手に持つ必要がなく、デバイスによってはハンズフリーでの操作が可能なため、日常生活はもちろん、ビジネスシーンでも幅広く活用されています。

ウェアラブルデバイスの形状は多岐にわたり、小型・軽量で長時間の装着が可能な設計となっています。

最新のウェアラブルデバイスは、高度なセンサー技術やIoT、AI技術との連携により、従来のデバイスでは実現できなかった機能を有しています。心拍数や血中酸素飽和度、体温などの生体情報をリアルタイムで計測し、健康管理に活用したり、GPS機能を用いて位置情報を把握し、ナビゲーションや安全管理に役立てたりすることが可能です。

一方で、ウェアラブルデバイスの普及に伴い、プライバシーやセキュリティの問題も重要な課題となっています。
 

ウェアラブルデバイスの主要な構成要素

ウェアラブルデバイスは、その小型化と高機能化を実現するために、複数の先端技術が組み合わされています。まず、デバイスの頭脳となる部分には、小型で高性能なプロセッサーとメモリが搭載されています。これらの多くは従来のスマートフォンやタブレットで使用されているものよりもさらに小型化され、省電力設計が施されています。

次に、ウェアラブルデバイスの重要な特徴である長時間駆動を可能にするのが、最新のバッテリー技術です。リチウムイオンポリマー電池などの高密度バッテリーと、効率的な電力管理システムの組み合わせにより、小型ながらも長時間の使用が可能となっています。

また、ウェアラブルデバイスの機能の中核を担うのが、各種センサー類です。加速度センサー、ジャイロスコープ、心拍センサー、血中酸素濃度センサーなどが搭載され、ユーザーの動きや生体情報をリアルタイムで検知します。最新のデバイスでは、皮膚温度センサーや発汗量センサーなども採用され、より詳細な健康データの収集が可能になっています。

そして、データ通信機能も欠かせません。Bluetooth、Wi-Fi、そして一部のモデルではセルラー通信モジュールが搭載され、スマートフォンやクラウドサービスとのシームレスな連携が可能です。特に、最新の5G対応モデルでは、高速・大容量のデータ通信が可能となり、リアルタイムでの情報更新や遠隔モニタリングなどの新たな用途が広がっています。

ユーザーインターフェースも重要な構成要素です。小型のディスプレイやタッチパネル、ハンドジェスチャー、音声認識機能などが採用され、直感的な操作を可能にしています。
 

ウェアラブルデバイスの動作原理と基本機能

ウェアラブルデバイスの動作原理と基本機能は、高度なセンサー技術と情報処理能力の融合によって実現されています。

身体に装着された状態で常時稼働し、ユーザーの生体情報や周囲の環境データを継続的に収集します。心拍数、血中酸素濃度、体温といった生理学的データや、歩数、位置情報、周囲の温度や湿度などの環境データの検知が可能です。

収集されたデータは、デバイス内の小型プロセッサーで一次処理された後、Bluetooth や Wi-Fi などの無線通信技術を介して、スマートフォンやクラウドサーバーに送信されます。この連携により、大量のデータを効率的に処理し、長期的な傾向分析や複雑な計算を要する処理を行うことが可能となります。

ユーザーへのフィードバックが、リアルタイムで知らされることも特徴です。運動中の心拍数が設定値を超えた場合に警告を発したり、一日の歩数目標達成時に祝福メッセージを表示したりします。これにより、ユーザーは自身の健康状態や活動量を即座に把握し、必要に応じて行動を調整することができます。

近年では、機械学習やAI技術の進歩により、個人に最適化された分析と予測も可能です。ユーザーの生活パターンや健康状態の変化を学習し、将来的なリスクを予測したり、個別化されたアドバイスを提供したりすることができます。

例えば、睡眠パターンの分析から最適な起床時間を提案したり、ストレスレベルの変化から休息を促したりするなど、より高度な健康管理が実現しています。

さらに、一部のウェアラブルデバイスでは、エネルギーハーベスティング技術の採用が進んでいます。これは、体温や運動エネルギーなど、ユーザーの身体活動から生じるエネルギーを電力に変換する技術です。この技術により、デバイスの一部機能を自己給電で賄うことが可能となり、バッテリー寿命の延長や充電の手間の軽減につながっています。
 

ウェアラブルデバイスの種類と用途

ウェアラブルデバイスの種類と用途を知っておくことは、ビジネス現場での活用を考える上で重要な要素です。

現在、主なウェアラブルデバイスには以下のものがあります。
 ●    スマートウォッチ
 ●    スマートグラス
 ●    スマートイヤホン
 ●    スマートリング
 ●    スマートクロージング

これらのウェアラブルデバイスは、単体で使用するだけでなく「相互に連携させる」ことで、より高度な機能を発揮することができます。ビジネス現場では、最適なデバイスを活用することによって、従業員の安全管理や健康管理に役立てられるでしょう。

ここからは、各ウェアラブルデバイスの特徴や用途などを解説します。
 

スマートウォッチ

ウェアラブルデバイスの中でも、最も普及している形態の一つがスマートウォッチです。腕時計型のデザインを採用しているため、日常生活やビジネスシーンに自然に溶け込みながら、多彩な機能を発揮します。

スマートウォッチの主要な特徴は、健康管理機能の充実にあります。心拍数や歩数、睡眠時間などの基本的なデータに加え、血中酸素濃度や体温測定といった高度な健康指標もモニタリングできるようになりました。これらのデータを継続的に収集・分析することで、ユーザーの健康状態を総合的に把握し、生活習慣の改善や疾病の早期発見につなげることが可能です。

ビジネスシーンにおいては、スマートウォッチの通知機能が特に重宝されます。メールやSNS、スケジュールの通知をリアルタイムで受け取れるため、会議中や移動中でもスマートフォンを取り出すことなく、重要な情報をさりげなく確認できます。これにより、業務の中断を最小限に抑えつつ、素早く情報を把握することが可能です。

また、多くのスマートウォッチモデルにNFCペイメント機能が搭載されているのも大きな特徴です。腕時計一つで電子マネーやクレジットカード決済が可能となり、財布やスマートフォンを取り出す手間が省けます。これは、接客業や外回りの多い営業職などにとって、業務効率の向上につながる機能と言えるでしょう。
 

スマートグラス

スマートグラスは、ウェアラブルデバイスの中でも特に注目を集めている製品の一つです。メガネ型やスカウタ型、ゴーグル型などのデザインを採用し、ユーザーの視界に直接情報を表示することができる革新的なデバイスです。

拡張現実(AR)技術を活用し、現実世界にデジタル情報を重ねて表示できるものもあります。

ビジネス現場では、スマートグラスの活用により作業効率の大幅な向上が期待されています。製造現場では作業手順や部品情報をリアルタイムで表示することで、作業者のミスを減らし、生産性を高めることができます。

また、スマートグラスの大きな利点の一つは、ハンズフリーでの情報参照やデバイス操作が可能な点です。両手を使う必要がある作業中でも、音声コマンドや視線制御などでデバイスを操作できる場合は、作業の中断を最小限に抑えられます。

この特性は、建設現場や保守点検作業など、従来は紙のマニュアルやタブレット 端末を参照しながら行っていた作業の効率を飛躍的に向上させるでしょう。

さらに、スマートグラスは遠隔サポート機能を備えているものが多く、現場作業者と離れた場所にいる専門家をリアルタイムで繋ぐことができます。複雑な機械の修理作業中に、スマートグラスを通じて専門家の目線で状況を確認し、適切なアドバイスを受けることが可能です。

最新のモデルでは、AIによる画像認識機能を搭載したものも登場しています。この機能により、作業対象物を自動認識し、関連情報を即座に表示したり、不良品の検出を支援したりすることができます。
 

スマートイヤホン

ヒアラブル、イアラブルなどとも呼ばれます。ウェラブルデバイスの中ではスマートウォッチと並んで最もマーケットが立ち上がっているジャンルです。

最新のスマートイヤホンに搭載されているノイズキャンセリング機能は、オフィスや工場など騒音の多い環境下でも快適な作業を可能にします。周囲の雑音を効果的に遮断することで、ユーザーの集中力を高め、生産性の向上につながります。

この機能は長時間のオンライン会議や電話会議での疲労軽減にも役立ちます。

逆に、機器の異音や周囲の様子に気を配る必要がある場合は、周辺音を取り込むモードにできます。定常音以外の音を強調するような音声処理を施すことも可能です。

音声アシスタント機能の搭載により、ハンズフリーでの情報検索や各種操作が可能になりました。作業中にスケジュールの確認や簡単なタスク管理、メールの送受信などを音声指示で行えるため、業務の効率化に役立ちます。特に、両手を使う作業が多い製造現場や医療現場では、この機能の有用性が高く評価されています。最近の生成AIの急進歩により、音声アシスタントのエンジンに生成AIを取り込もうという動きも顕著です。

最新のスマートイヤホンは、健康管理機能も充実しています。耳から心拍数や体温などのバイタルデータを測定し、より正確な健康状態の把握が可能になりました。これにより、従業員の健康管理や過労防止に役立てることができます。

特に、高温環境下での作業や長時間のデスクワークなど、健康リスクの高い業務において、リアルタイムでの体調モニタリングは安全管理の観点から重要です。

グローバルビジネスの現場で注目を集めているのが、リアルタイム翻訳機能を搭載したスマートイヤホンです。異なる言語を話す相手とのコミュニケーションをスムーズにし、言語の壁を越えたビジネス展開に役立つでしょう。

さらに、最先端のスマートイヤホンでは、脳波測定機能を搭載したモデルも登場しています。これにより、ユーザーのストレスレベルや集中度をリアルタイムで可視化することが可能になります。この機能は、従業員のメンタルヘルスケアや、最適な作業環境の設計に活用できます。一般に脳波は信号強度が低く有効なノイズ除去が必要とされ、研究開発が進められています。
 

スマートリング

ウェアラブルデバイスの中でも、スマートリングは最も小型で目立たないデザインを特徴としています。

スマートリングの基本的な機能として、睡眠の質や活動量などの健康データを収集し、ユーザーのライフスタイルを可視化することが挙げられます。これらのデータは専用のアプリと連携し、日々の生活習慣の改善や健康管理に役立てることができます。ビジネスパーソンにとっては、睡眠の質を向上させることで仕事のパフォーマンスアップにつながるでしょう。スマートウォッチと比べると寝ている時やシャワー時にも外さない人が多いため、継続的な健康管理には特に有効です。

NFC機能を搭載したモデルでは、さらに便利な使い方が可能です。オフィスのドアの解錠やパソコンのログイン認証など、セキュリティ関連の機能として活用できます。

最新のスマートリングモデルでは、ジェスチャー認識機能が搭載されているものもあります。指の動きだけで、スマートフォンの操作やプレゼンテーションのスライド送りなど、様々な操作が可能になります。会議中やプレゼンテーション中に、さりげなく機器を操作できるため、スムーズな進行をサポートします。

さらに進化したモデルでは、皮膚の電気抵抗を測定することで、ユーザーのストレスレベルや自律神経の状態を分析する機能も登場しています。これにより、ビジネスパーソンは自身の心身の状態を客観的に把握し、適切なストレス管理や休息のタイミングを判断することができます。
 

スマートクロージング

スマートクロージングは、従来の衣服にセンサーやマイクロエレクトロニクスを組み込むことで、着用者の身体状態や周囲の環境を常時モニタリングできるのが特徴です。

心拍数や呼吸数、体温などのバイタルデータを常時モニタリングすることで、着用者の健康状態をリアルタイムで把握できます。特に、高齢者や持病を持つ人々にとって、このような継続的な健康モニタリングは大きな安心感をもたらすでしょう。

さらに、最新のスマートクロージングモデルでは、外部環境に応じて体温を調節する機能も搭載されるものがあります。例えば、寒冷環境下では衣服が自動的に保温機能を高め、暑熱環境下では放熱を促進するなど、着用者の快適性を常に最適に保つことができます。この技術は、過酷な環境下で働く労働者の安全管理にも応用が期待されています。

最新の技術動向としては、ナノファイバー技術を用いた軽量・高機能な素材開発が急速に進んでいます。これにより、センサーやデバイスを衣服に組み込みながらも、従来の衣服と変わらない着心地や外観を実現することが可能になってきました。さらに、自己修復機能を持つ素材の開発も進んでおり、耐久性の向上にも期待が寄せられています。
 

製造業におけるウェアラブル端末の活用例とメリット

製造業におけるウェアラブル端末の活用は、業務効率の向上や品質管理の強化、従業員の安全確保など、多岐にわたるメリットをもたらしています。

特に、人手不足や技能継承の課題を抱える製造現場において、ウェアラブルデバイスは革新的なソリューションとして注目を集めています。

また、製造業におけるウェアラブルデバイスの活用は、まだ発展途上の段階にあります。しかし、5Gの普及やAI技術の進化に伴い、その可能性はさらに広がっていくと予想されます。

製造業の競争力強化と持続成長のためにも、ウェアラブルデバイスの戦略的な導入と活用が求められています。
 

作業効率の向上と品質管理

スマートグラスを用いたハンズフリーでの作業指示は、作業者の生産性を飛躍的に向上させています。作業者は両手を自由に使いながら、視界に表示される作業手順や技術情報を確認できるため、作業の中断や参照資料の確認のための移動が不要になります。

また、ウェアラブルカメラによる作業プロセスの自動記録は、品質管理の精度向上に大きな役割を果たしています。作業の全工程が映像として記録されるため、不具合が発生した際の原因究明が容易になり、改善策の立案も迅速に行えるようになりました。

さらに、モーションセンサー付きウェアラブルデバイスを活用した作業者の動作分析は、人間工学的な観点から作業環境の改善に貢献しています。作業者の動きを詳細に分析することで、無駄な動作や負担の大きい姿勢を特定し、作業手順や設備レイアウトの最適化につなげることができます。
 

安全管理と労働環境の改善

バイタルセンサー付きウェアラブルデバイスの導入により、作業者の心拍数、体温などの生体情報をリアルタイムで監視することが可能になりました。これにより、熱中症や過労のリスクを早期に検知し、適切な休憩や作業の中断を促すことができます。

さらに、スマートヘルメットの活用も進んでいます。GPSや加速度センサーを搭載したスマートヘルメットは、作業者が危険区域に近づいた際に自動的に警告を発します。また、転倒や落下を検知し、即座に管理者に通知することで、迅速な救助活動につながります。

筋電位センサーを搭載したウェアラブルデバイスも、労働災害の予防に貢献しています。作業者の筋肉の動きや負荷を継続的に分析することで、腰痛や筋骨格系の障害リスクを評価し、適切な作業姿勢や休憩するタイミングの提案が可能です。

また、有害物質(有毒ガスや放射線など)検知センサーや騒音計を搭載したデバイスにより、作業者の周囲の環境を常時監視し、許容値を超える状況が発生した場合に即座に警告を発することができます。これにより、長期的な健康被害のリスクを大幅に低減することが可能になりました。
 

技能伝承と遠隔サポート

AR(拡張現実)機能を搭載したスマートグラスは、新人作業者の教育に大きな変革をもたらしています。作業手順をリアルタイムで視界に表示することで、従来の紙のマニュアルや口頭指導では伝えきれなかった細かなノウハウを効果的に伝達できます。

ウェアラブルカメラとAI技術を組み合わせた作業分析システムは、熟練工の暗黙知を可視化する強力なツールとなっています。熟練工の作業をカメラで記録し、AIが動作を分析することで、経験や勘に頼っていた技能を数値化・言語化することが可能になりました。

また、5G技術の普及に伴い、高精細な映像を用いた遠隔作業支援も現実のものとなっています。例えば、海外工場で発生したトラブルに対して、本社の専門家がリアルタイムで指示を出すことが可能になりました。このような遠隔サポートシステムの導入により、現場への移動コストを大幅に削減できます。

グローバル化が進む製造業において、言語の壁は依然として大きな課題です。しかし、多言語リアルタイム翻訳機能を搭載したイヤホン型やグラス型のデバイスの登場により、この問題も解決に向かっています。日本の工場と海外の工場間でリアルタイムコミュニケーションが可能になり、今後はより技術交流が活発化するでしょう。
 

データ駆動型の生産管理

製造業におけるウェアラブル端末の活用は、データ駆動型の生産管理を実現する上で重要な役割を果たしています。これらのデバイスから収集されるビッグデータをAIで分析することで、生産ラインの最適化が可能となり、生産効率の大幅な向上が期待できるからです。

リアルタイムでの作業進捗状況を可視化できるようになれば、生産ラインのボトルネックを迅速に特定し、適切な対策を講じることが可能となります。この手法を導入することで、生産リードタイムの短縮が可能です。

さらに、ウェアラブルデバイスとIoTセンサーを連携させることで、在庫管理の自動化も進んでいます。作業者の動きと連動して在庫の入出庫を記録し、リアルタイムで在庫状況を把握することが可能です。これにより、過剰在庫や欠品のリスクが低減され、在庫コストの削減につながります。

また、ウェアラブルデバイスから得られる作業者の動線データと、機械の稼働データを組み合わせて分析することで、人員配置の最適化が可能です。人的リソースの効率的な活用が実現し、人件費の削減にもつながるでしょう。
 

顧客サービスの向上と新ビジネスモデルの創出

AR機能を搭載したスマートグラスを用いた遠隔メンテナンスサービスは、顧客満足度の大幅な向上に貢献しています。例えば、複雑な産業機器のトラブルシューティングにおいて、顧客側のオペレーターがスマートグラスを装着し、製造元の専門技術者が遠隔地から視覚的な指示を提供することが可能になりました。

さらに、ウェアラブルデバイスによる製品使用状況のモニタリングは、予防保全サービスの提供を可能にし、アフターマーケット収益の増加につながっています。

カスタマイズ可能なウェアラブルデバイスの提供は、顧客ごとの特殊ニーズに対応し、新規顧客の獲得につながっています。例えば、特殊な作業環境に対応したウェアラブルデバイスを開発することで、従来アプローチが困難だった業界や企業へのサービス提供が可能になりました。

そして、ウェアラブルデバイスを通じた顧客行動データの収集と分析は、製品開発サイクルの短縮と市場ニーズへの対応力強化につながっています。

ウェアラブルデバイスを通じて収集された製品の使用状況や顧客のフィードバックを、AIを用いてリアルタイムで分析することで、市場トレンドをいち早く把握し、製品改良や新製品開発に活かすことができるでしょう。
 

物流業界におけるウェアラブル端末の活用例とメリット

物流業界におけるウェアラブル端末の活用も、業務効率化と生産性向上のキーポイントとして注目を集めています。特に、2024年問題と呼ばれるトラックドライバーの時間外労働規制への対応や、慢性的な人手不足の解消に向けて、ウェアラブルデバイスの導入が急速に進んでいます。

また以下のように、物流業界におけるウェアラブル端末活用のメリットは多岐にわたり、業界全体の競争力強化という点でも欠かせないでしょう。

 ●    ピッキング作業の効率化
 ●    梱包・出荷作業の品質向上
 ●    在庫管理の精度向上と効率化
 ●    配送ルートの最適化と配送品質の向上
 ●    作業データの可視化と業務改善

ここからは、物流業界での活用例やメリットについて解説します。
 

ピッキング作業の効率化

物流業界におけるウェアラブル端末の活用は、特にピッキング作業の効率化において大きな成果を上げています。スマートグラスを用いたハンズフリーでのピッキングは、作業者の両手を自由にし、作業効率を飛躍的に向上させています。

さらに、音声認識技術との組み合わせにより、ハンズフリーかつアイズフリーな作業環境が実現しています。作業者は視線を移動させることなく、音声指示に従ってピッキングを行うことができるため、作業ミスの大幅な削減につながっています。

また、ARナビゲーション機能により、商品の位置や取り出し方法をリアルタイムで視界に表示することで、複雑な倉庫内でも迷うことなく効率的にピッキングを行うことができます。これにより、新人作業者の習熟期間の短縮が可能です。

ウェアラブル端末を通じて、ピッキング作業と同時に在庫数が自動的に更新されるため、常に正確な在庫状況を把握することができ、在庫管理コストを削減することができます。
 

梱包・出荷作業の品質向上

ウェアラブルカメラの導入により、梱包作業の自動記録が可能となり、クレーム対応時の原因特定時間が大幅に短縮されています。

さらに、AI画像認識技術との連携により、梱包ミスの削減と返品率の低減が実現しています。カメラで撮影された映像をリアルタイムで分析し、不適切な梱包方法や商品の欠陥を即座に検出することで、出荷前に問題を解決できるようになりました。

作業者の安全面でも、ウェアラブルデバイスは重要な役割を果たしています。重量センサー付きのデバイスを装着することで、重量物の持ち上げ作業時の腰痛リスクを低減できます。センサーが適切な持ち上げ方を検知し、不適切な動作を行った際には警告を発するようにすれば、作業者の身体への負担を軽減できます。

また、バイタルセンサーを搭載したウェアラブルデバイスによる作業者の健康モニタリングにも注目です。特に夏場の倉庫内作業では熱中症のリスクが高くなりますが、体温や心拍数、発汗量などをリアルタイムで監視することで、熱中症の予防に大きく役立っています。
 

在庫管理の精度向上と効率化

RFIDリーダー搭載のウェアラブルデバイスの導入により、棚卸しの作業時間を大幅に短縮することが可能です。腕時計型のRFIDリーダーを装着することで、棚の前を歩くだけで商品の数量や位置情報を自動的に読み取ることができ、人為的ミスの削減と作業効率の向上が同時に実現できます。

さらに、AIによる需要予測システムとウェアラブルデバイスを連携させることで、在庫管理の最適化が可能になります。AIが過去の販売データや外部要因(天候、イベントなど)を分析し、商品ごとの最適在庫量を算出してくれます。

また、温度管理が必要な商品の取り扱いにおいても、ウェアラブルデバイスの活用が進んでいます。温度センサー付きのデバイスを使用することで、冷蔵・冷凍商品の温度を常時モニタリングし、異常を即座に検知することが可能になっています。これにより、温度管理ミスによる商品の廃棄ロスが大幅に削減されています。
 

配送ルートの最適化と配送品質の向上

GPSとAI技術を組み合わせたウェアラブルデバイスの導入により、リアルタイムの交通情報を考慮した最適配送ルートの提示が可能となりました。

これにより、ドライバーは常に最新の交通状況に基づいて効率的なルートを選択できるようになり、配送時間の大幅な短縮が実現しています。

さらに、振動センサーを搭載したウェアラブルデバイスによる荷物の取り扱い状況モニタリングも、配送品質の向上に大きく役立っています。このシステムでは、荷物に加わる衝撃や振動をリアルタイムで検知し、不適切な取り扱いがあった場合に即座に警告を発します。

ARナビゲーション機能を活用した効率的な積み込み指示も、配送業務の革新をもたらしています。ドライバーがスマートグラスを装着することで、荷物の最適な積み込み順序や位置がAR表示されるため、積載効率を大幅に向上させられるでしょう。
 

作業データの可視化と業務改善

AIと連携したデータ分析により、個人別の作業効率を詳細に把握し、適切な人員配置が可能になりました。ウェアラブルデバイスから収集された作業データをAIで分析することで、各作業者の得意・不得意分野や作業スピードの変化などを可視化できます。

さらに、作業動線分析を活用した倉庫レイアウトの最適化も進んでいます。ウェアラブルデバイスで収集した作業者の移動データをAIで分析し、最も効率的な商品配置や作業動線を導き出すことが可能です。

また、作業者のメンタルヘルスケアにも、ウェアラブルデバイスが活用されています。音声ストレス分析技術を用いて、作業中の声のトーンや話し方の変化からストレスレベルを推定し、リアルタイムでモニタリングすることが可能になりました。この技術を導入してメンタルヘルスケアを強化すれば、離職率を低減することができるでしょう。

新人教育の分野でも、ウェアラブルデバイスとVR技術を組み合わせた効果的な訓練システムが注目を集めています。実際の作業環境をVRで再現し、ウェアラブルデバイスを通じて詳細な作業指示を提供することで、より実践的な訓練が可能となっています。
 

ウェアラブルデバイス導入への課題

ウェアラブルデバイスのビジネス現場への導入は、多くの可能性を秘めていますが、同時にいくつかの重要な課題も存在します。

導入時の主な課題には、以下のことが挙げられます。

 ●    プライバシーとデータセキュリティの懸念
 ●    技術的互換性と既存システムとの統合
 ●    従業員の受容性と教育トレーニング

これらの課題に適切に対処することが、ウェアラブルデバイス導入と活用のキーポイントとなります。

また、これらの課題に対処するためには、企業は包括的な戦略を立て、段階的なアプローチを取ることが重要です。
 

プライバシーとデータセキュリティの懸念

ウェアラブルデバイスのビジネス現場への導入において、プライバシーとデータセキュリティの懸念は最も重要な課題の一つです。

これらのデバイスは、従業員の位置情報、健康データ、行動パターンなど、非常に個人的で機密性の高い情報を収集します。そのため、企業はこれらのデータの収集・管理に関する法的・倫理的問題に適切に対応しなければなりません。

まず、従業員の個人情報保護法に基づく権利を尊重し、データ収集の目的や範囲、利用方法について明確に説明し、同意を得ることが重要です。また、収集したデータの保管期間や削除方法についても明確なガイドラインを設ける必要があります。

データ漏洩リスクに対しては、高度なセキュリティ対策の実装が不可欠です。具体的には、データの暗号化、アクセス制御、安全な通信プロトコルの使用などが挙げられます。さらに、定期的なセキュリティ監査を実施し、脆弱性を早期に発見・対処することが重要です。デバイスの紛失、盗難を防ぐよう、管理体制をきっちりと整えることも重要です。

従業員のプライバシー意識向上も重要な課題です。多くの従業員は、ウェアラブルデバイスによって収集されるデータの範囲や潜在的なリスクを十分に理解していない可能性があります。そのため、企業は従業員向けの教育プログラムを開発・実施し、プライバシー保護の重要性や適切なデバイスの使用方法について啓発する必要があるでしょう。

現場でウェアラブルデバイスを着用するのが従業員ではなく、契約会社社員やパート・アルバイトなどの場合もあります。契約時にデバイスの用途と使い方、データの取り扱いなどについて十分説明を行って理解を得ることが必要です。
 

技術的互換性と既存システムとの統合

異なるメーカーのデバイス間でのデータ互換性確保とAPI開発が重要です。

ウェアラブルデバイス市場には多くのメーカーが参入しており、各社が独自の規格やデータフォーマットを採用しています。これらのデバイスから収集されるデータを統合的に活用するためには、共通のデータ形式やプロトコルの策定が不可欠です。

次に、レガシーシステムとの連携における技術的障壁の克服が課題となります。多くの企業では、長年使用してきた基幹システムや業務アプリケーションが存在し、これらとウェアラブルデバイスを連携させることは容易ではありません。特に、セキュリティ面での懸念や、データ形式の変換、リアルタイム性の確保などが課題となります。

また、ウェアラブルデバイスから収集される大量のデータを効果的に管理し、分析するためには、スケーラブルで柔軟性の高いクラウド環境が適しています。クラウドベースのプラットフォーム構築によるデータ統合と分析環境の整備も重要な取り組みです。

さらに、ウェアラブルデバイスから生成される膨大なデータをリアルタイムで処理し、即座にフィードバックを提供するためには、高速・大容量の通信環境と分散処理技術が不可欠です。5G通信やエッジコンピューティング(エッジ処理)を活用することで、クラウドへのデータ送信量を削減しつつ、迅速な処理が可能になります。
 

従業員の受容性と教育トレーニング

新しい技術の導入には常に抵抗感がつきものですが、特にウェアラブルデバイスの場合、プライバシーの懸念や使用方法の複雑さが加わり、従業員の不安や抵抗感がさらに高まる可能性があります。また、他の新しい道具と同様、ウェアラブルデバイスによって業務効率を高めるためには、使う側が十分に使い方に慣れる必要があります。そうでないと逆に業務効率が下がってしまう恐れがあります。実際、PoCなどで、使い方が不慣れなために業務効率が下がり導入を見送ることになり、本来のウェアラブルデバイスのポテンシャルを見逃すケースが多くあります。

この課題に対処するためには、まず年齢層や技術習熟度に応じた段階的な導入プログラムの設計と実施が不可欠です。

例えば、若手従業員向けには最新のデジタル技術を活用したインタラクティブな学習プログラムを提供し、中高年層の従業員には丁寧な対面指導と実践的なハンズオントレーニングを組み合わせるなど、柔軟なアプローチが求められます。

また、デバイス使用による業務改善効果を可視化し、従業員へのフィードバック体制を構築することも重要です。具体的な数値や事例を用いて、ウェアラブルデバイス導入によって作業効率が向上した点や、労働負荷が軽減された点などを明確に示すことで、従業員の理解と受容を促進することができるでしょう。
 

最新の技術や情報を取り入れるために

さまざまな用途で利用され始めているウェアラブルデバイスですが、常に技術は発展しており、最新のウェアラブル端末が次々と登場しています。いち早く最新の情報を取り入れることが、他社との差別化・および貴社の発展に繋がるのではないでしょうか。

年に一度開催されているウェアラブル専門展「ウェアラブルEXPO」では、最新のウェアラブル端末から、活用ソリューション、AR/VR技術、最新ウェアラブルデバイス開発のための部品・材料まで、ウェアラブルに関する全てが出展します。

専門技術を持つ企業とその場で商談ができたり、セミナーが開催されるなど、これからウェアラブルデバイスを取り入れようと考えている方にはぴったりの展示会です。詳細は下記ページからご確認ください。


監修者情報

監修:塚本 昌彦
神戸大学大学院工学研究科教授、情報処理学会(理事),電子情報通信学会,
人工知能学会,日本ソフトウェア科学会,日本バーチャルリアリティ学会,
ヒューマンインタフェース学会,NPO WIN(理事),NPOチームつかもと(理事長),
ACM,IEEE各会員.NPO WUG(会長)

経歴:
ウェアラブルコンピューティング、ユビキタスコンピューティングのシステム、
インタフェース、応用などに関する研究を行っている。 応用分野としては特に、
エンターテインメント、健康、エコをターゲットにしている。
2001年3月よりHMDおよびウェアラブルコンピュータの装着生活を行っている。


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